今から10年程昔の話です。
義父の法事があるので夫の実家へ行く予定がありました。

毎年、義父の命日にはご住職にお経をあげてもらい、菊の花と義父の好物を持って皆でお墓参りに行きます。
法事がある日は早い時間に自宅を出るので、菊の花は前日までに準備するのがいつもの事でした。
そして、法事の前日。
私は朝から持病の通院でクリニックへ。
会計を済ませ処方箋を受け取り、隣にある調剤薬局までいつもの薬をもらいに行きました。

調剤薬局の待合室で待ってる間、私の頭の中は菊の事でいっぱい!
「帰宅する途中で菊の花を買って帰らなきゃ!」
「絶対に忘れないようにしないと!」
引っ越してから初めての義父の法事でしたので、どこで菊の花を購入しようかすごく迷っていました。
菊、菊、菊、そんな事ばかりを考えて待合室で待っていると、私の名前が呼ばれました。
薬がない
調剤薬局のカウンターの椅子に座ると、薬剤師の方から申し訳なさそうに薬の在庫がないと言われました。

ないものは仕方がない。
「薬を取り寄せます。」と薬剤師さんは言ってくださったのですが、すぐに薬がほしかったので車で5分ほどの他の調剤薬局に行く事にしました。
しかし、2件目の調剤薬局でも薬の在庫がなく薬を頂く事ができません。
取り寄せをお願いしようか迷いましたが、近隣には他にも調剤薬局が何件もあります。(大きな病院の近くでしたので)
私は調剤薬局の方にお礼を伝え、3件目の調剤薬局に行く事にしました。
新聞紙をもったご婦人
少し離れた駐車場に車をとめ、歩道を歩いていると目指す調剤薬局の看板が見えてきました。

歩きながらも私の頭は菊の事でいっぱい!
菊を忘れないようにしなきゃ
菊をどこのお店で買おうか?
菊、菊、菊
そんな事を考えながら歩いていると前方から何か大きなものを両手で抱えた人がふたり並んで歩いてきました。
ジロジロ見るのも失礼かと思い伏し目がちにすれ違った瞬間、
「すみません。〇△□・・・」

えっ?
声がする方にふり返ると、そこには筒状になった大きな新聞紙を両手に抱えている7喪服を着たご婦人(70代?)おふたりが立っていました。
「このお花、もらってくれないかしら?」
ご婦人は抱えている新聞紙を私の向けて見せてくれました。
新聞紙の中は菊の花がぎっしり!
「いいんですか?ありがとうございます!」
こんな事を初めての経験でしたので一瞬迷いましたが、お礼を伝え遠慮なく頂く事にしました。
新聞紙にくるまれた菊の花束2つ受けとってびっくり!
当時、まだ40代の私が抱えても本当に重い花束でした。

ご婦人の話しでは知人の葬儀に参列した際に仏花をもらったとの事。しかし、あまりに量が多すぎて持って帰るのが辛くなってしまったそうです。
「あー、助かったわ。」
というとご婦人ふたりはスタスタと歩いていってしまいました。
車の中は菊の花でいっぱい

その後、私は菊の花束2つを両手でかかえて3件目の調剤薬局へ。
処方箋の薬はすぐに頂く事ができました。
その後、お花屋さんで菊の花も購入したので帰りの車の中は菊の花でいっぱい!
菊の花の香を嗅ぎながら、ちょっとでもタイミングがずれていたら菊の花をもらう事はなかったのに・・・と不思議な気持ちで帰宅しました。
帰宅後、新聞紙の包を開くと菊以外にも百合や蘭など豪華な花もはいっています。

私の自宅には仏壇がありません。この大量の仏花どうしよう?義父のお墓に持っていく?でも、それだと菊の使いまわしになって義父に失礼かしら?やっぱり私が買った菊の花だけ持っていこう!でも・・・私は1時間程悩みました。
しかし、いくら悩んで答えがでないので思い切って義母に事情を話して尋ねてみる事にしました。
すると義母は大喜び。
「全く気にならないから持ってきて!」
こうして、この年の義父の命日には、私が準備した菊とよそ様から頂いた菊と両方の花束を抱えて行く事になりました。(義父のお墓と仏壇は菊の花でいっぱいになりました。)
菊の花の事ばかり考えていたら、菊の花をもらったという昔話でした。